【3分でわかる】「海に囲まれた日本」に秘められた経済成長のエンジン。洋上風力発電のポテンシャルと課題
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日本はよく「小さな島国」と表現されます。国土の面積は世界で61番目と決して小さな方ではありませんが、ロシアの約45分の1、アメリカや中国の約26分の1と、世界の主要国と比べると小さく思えるのかもしれません。
ただし「海」を見ると、話は一気に変わります。日本の海域面積はロシアや中国を上回り、世界6位の大きさを誇ります。
この広大な海で電気を生み出す「洋上風力発電」が今、日本の新たな経済成長エンジンとして注目されています。日本政府も「国内部品メーカーの再興」につながると期待を寄せる技術について、秘められた可能性を見ていきましょう。
発電だけじゃない 大きな産業を生み出す
洋上風力発電とは、海上に設置した風車を通じて電力を生み出す技術です。日本では秋田県の港湾地域や長崎県五島市の沖合などですでに発電が行われています。
洋上風力発電には大きく分けて2つの種類があります。水深が比較的浅い海域で風車の基礎部分を海底に固定する「着床式」と、基礎部分を海に浮かべて係留する「浮体式」です。浮体式は水深が深い海域にも洋上風力設備を設置できるメリットがあります。特に日本の場合は沖合から急に水深が深くなる地形もあり、浮体式は極めて重要な技術といえます。
なぜ、洋上風力発電が日本経済の成長エンジンのひとつと位置づけられているのか。簡単に言えば「ただ発電するだけのものではないから」です。洋上風力発電には、海域に設置する基礎部分や風車の製造など膨大な工程が発生しますが、このひとつひとつが経済効果を生んでいくのです。
経済産業省が官民協議会で取りまとめた「洋上風力産業ビジョン(第2次)」では、「事業規模が数千億円~一兆円規模にもなり、構成する機器や部品点数が数万点に及び関連産業の裾野も広いことから経済波及効果が見込まれている」との記載があります。
この「ビジョン」は特に、技術的に開発途上にある浮体式に着目しており、日本の持つ「世界に冠たる」技術が「浮体式洋上風力発電の核となり得る」と指摘しています。具体的には、造船技術、炭素繊維、合成繊維、鋼材等の素材技術、電力ケーブル、磁石、ベアリング製造技術などが示されています。
つまり、洋上風力発電はただ電気を生み出すだけでなく、部品の製造や海上設置工事、長年にわたる保守工事などを通じて新たな産業と雇用を生み出せるのです。
既存のプロジェクトにおいても、大きな経済効果を生み出すことが期待されています。長崎県五島市によると、風車の耐用年数を20年と見込んだ場合、経済波及効果は約41億円、360人の新規雇用が創出できると試算されているとのことです。
製造業に新たな成長の機会
洋上風力発電が秘める可能性に対し、政策サイドも後押しを始めています。
大きな変化が、2025年6月の海洋再エネ整備法(旧:再エネ海域利用法)の改正です。これにより、洋上風力の発電設備を設置できる海域がこれまでの「領海・内水」から「排他的経済水域(EEZ)」に拡大されました。今後、実際に発電実施可能な海域を選定する必要はありますが、世界6位を誇る管轄海域をフル活用するための準備が整ったのです。
政府も期待を寄せています。2026年7月に公表された「日本成長戦略」では特に重点的な成長投資を実行する「17の戦略分野」が明示されていますが、12番目の「資源・エネルギー安全保障・GX」のひとつに洋上風力発電が掲げられています。
「日本成長戦略」は、洋上風力発電が今後、アジア太平洋地域で拡大していくと見込んでいます。加えて、国内に風車の製造拠点を整備するなどして「国内部品メーカーの再興を図る」としています。つまり、洋上風力発電は、日本国内だけでなく海外展開も含めた成長機会を国内の製造業などにもたらす存在として位置付けられているのです。
洋上風力発電を広めるメリットは経済的利益にとどまりません。エネルギー安全保障の観点からも重要です。
中東情勢の悪化からホルムズ海峡を経由した化石燃料の輸入が停滞し、私たちの生活への影響が懸念されています。領海やEEZ内で自然の風を利用して電気を作る洋上風力発電は、国際情勢の変化や他国による経済的威圧にも左右されづらい日本社会を作る上で欠かせない要素なのです。
国内製造網の整備を
これまで見てきたように、洋上風力発電には、広大な海を生かした経済成長エンジンとしての期待がかかります。他方で、まだまだ課題が多いことも事実です。
例えば、「洋上風力産業ビジョン(第2次)」はそのポテンシャルを認めつつも、洋上風力発電に用いられる大型風車の製造拠点が整っていない現状を指摘し、「海外からの輸入に依存している」と課題を挙げています。(これに対して、国内製造拠点の整備など、対策が検討されています。)
さらに、同ビジョンは「陸上風力の経験等から技術力を有する国内部品メーカーの潜在力や、国内のものづくり基盤を十分に活用できていない状況」が続いているとも記しています。たしかに、日本のものづくり産業は間違いなく高い技術を持っているものの、海外に大きく遅れてしまった大型風車製造に今から参入をすることは、決してたやすいことではありません。国内の技術力を活かせるように、製造・供給網を構築し直す必要があります。
また、浮体式については、着床式と比べて技術そのものが発展途上であることにも留意が必要です。風力発電分野の国際的業界団体であるGlobal Wind Energy Council(GWEC)によると、本格的な普及は2030年以降とされています。上述したように、より大規模な発電を実現するためには、水深の深い海域に設置できる浮体式の普及が前提となります。
このように、洋上風力発電は、日本だからこそ活かせる条件が整いつつも、時間をかけて解決すべき課題も同時に存在する技術と言えます。日本の製造業に活力をもたらし、エネルギー安全保障にも貢献する技術の発展へ。私たちには、希望も課題も直視しながら産業そのものを守り育てていく姿勢が求められているのではないでしょうか。
参考資料
・再エネポータル「洋上風力発電とは? 日本における意義・政策的位置づけと導入拡大に向けた課題」
・五島市 「五島市の『島ごとカーボンニュートラル』」公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北九州アーバンセンター主催「九州から始める脱炭素ドミノ ~ 再生可能エネルギーから、SDGsの環境・経済・社会を統合する 北九州市と五島市の取り組みを学ぼう ~」発表資料より(2022年3月15日)
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/2-4_Mr.%20Taichi%20YANAWAKI_Goto%20City_202203.pdf
・Global Wind Energy Council「Global Offshore Wind Report 2026」
https://www.gwec.net/reports/globaloffshorewindreport
・一般財団法人国土技術研究センター「意外と知らない日本の国土」
https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary02
・内閣官房 日本成長戦略本部/日本成長戦略会議「日本成長戦略」(2026年7月21日)
・経済産業省 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 「洋上風力産業ビジョン(第2次)」(2025年8月8日) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/003_02_02_01.pdf